短編小説『5センチ』
帰ってきて電気を付けると掛け時計の針が0時を回っていた。
最近は時計をみなくなるのが癖になってきている。
【今日も疲れたな…。】
明日起きる時間と寝れる時間を引き算して
消極法で風呂には入らず、歯と顔だけ洗ってそのまま布団へダイブした。
【早起きして髪の毛だけ洗わないといけないな】
夕飯は昼ろくに食べきれなかったコンビニ弁当の残りをかきこんだし良しとしよう。
【彼女は今頃もう寝ているのだろうか。起こしてはいけない。きっと寝ているだろうしまた明日連絡をいれよう】
そのままスマホを握って眠ってしまったようだ。まだ眠りが浅い時に手に握りしめているスマホがバイブする
ちかちかと光る着信を知らせるリンゴの形のライトを少し疎ましく思いながら 目を凝らして画面を覗くと
彼女の名前がそこにあった。
頭がまだ起動しないなか画面をタップした
【こんな遅い時間どうしたの】
【ごめんね、眠れなくて一声聞きたくなったんだ】
【何かあったの?】
【ううん、那智くんの事ずっと考えていたら
すぐに会えるのに、たまにあなたが遠い国にいるような気がするくらい寂しくなって、つい一声聞きたくなっちゃったんだ。でも眠そうな那智くんの声を聞いたら寂しさも我に返っちゃった。起こしてごめんね。】
彼女の心の中を伝える考え出された言葉はいつも微笑ましく、眠気から覚めないすこしの嫌気からすぐに愛しさに変わった。
【しばらく、連絡しなくてごめんな。最近はずっと仕事も休日も忙しかったんだ。でもおれも有希の事いつも考えているよ。遠い国って、いつもおれは名古屋市にいるよ。おんなじ市だよ。】
彼女の問いかけにロマンチストに答えようと自分なりに答えているのだが
いつもそれがすれ違ってうまくいかない。
【そうゆうことじゃないの】
目を瞑って話しているからか、、電話越しにふふふと微笑む彼女の顔が目に浮かぶ
【声、聞けてよかった。明日も仕事なのにごめんね。おやすみ。】
【うん。また会う日のメール送るよ。おやすみ。】
その週末
久しぶりの休みの日に高校生の同級生と気になっているラーメン屋さんに行くことになった。
鶴舞駅から少し歩く場所に店があるため集合場所は鶴間公園内にした。
待ち時間より早めに着いたので、空いているベンチに腰をかける。読みかけの本を開いた。
トレンチコートで来たことを少し後悔する肌寒さだ…。図書館か珈琲屋にでも避難しようか
そう思った矢先
本の上にみえる狭い視界に見慣れたNIKEのシューズが見えた。
【よっ、久しぶり】
【よっ。那智痩せたなー。めずらしく久々にお前からラーメン誘うなんてデブになったか、食に餓えているか(笑)どちらかだと思ってたけどどうやら後者のほうみたいだな。 最近、忙しいのか??】
【良樹は相変わらず勘がいいな(笑) その通りだよ、最近飯という飯を食ってないなー。コンビニ飯はたまに食ってるけど、忙しすぎてカロリーメイト握ってパソコン打ってるのがここんとこメインの俺だな(笑)】
【そんな貴重な休み、彼女さんと会わなくてよかったのか??】
【良樹がそんな心配らしくないじゃん(笑)どうした??あんなに拒んでたのについに彼女欲しくなったの??】
【まぁ、それはラーメン待ちの時にゆっくり話すわ。とりあえず、マップ起動させようぜ】
【おう!……】
スマホを開くと彼女からのラインがきていた
【噂をするば、彼女さん??】
【んー。】
【返さなくていいの??】
【ん。とりあえず、飯!!】
~~
【うまかったな。やっぱチャーシューはあれくらいあると嬉しいよな】
【5枚くらい乗ってたもんなー。那智の腹には久々の御褒美飯だったな】
【おう。ありがとな。久々にリフレッシュできたわ。良樹も気になってる子との進展また聞かせてな】
【まだ友達でもないとこからのスタートだから相談で迷惑かけちゃうかもだわ…。頼りにしてますぜ、先輩】
【先輩ってほどでもねーよ。まぁ、いつでも話は聞くぜ。またうまい飯食べに行こうな】
JRの改札口で良樹を見送ると
そのまま地下鉄に向かう。図書館はこの小説を読み終わってからまたいこう
電車待ちの列に並ぶ。
ふと鞄から本を出そうと鞄を覗くと
何かがちかちかと鞄のなかを照らしていた
あ。いけない。ライン返してなかったんだった…
ラインを起動させる。
“今日は良樹くんとリフレッシュできた?”ウサギの跳ねるスタンプ付だ。
案の定、有希からだった。
“寒い日にはラーメンに限るね(*´∇`*) リフレッシュできたよ。有希はなにしてたの?”
また鞄から本を取り出そうと探ると
すぐにポケットが震えた。
スマホを開くと有希からの返事だった。
“今日は私も、若子とランチしてたよ ラーメンいいねこっちはパンケーキでした”
写真付きだ。写真を開くとパンケーキが乗った大皿を顔の横に持って笑顔の有希がいた。とても楽しそうだ。
楽しそうならよかった。適当に見繕ったスタンプを送る。
再びポケットに入れようとすると今度は手のなかでスマホが震えた
“本当は今日、会いたかったな”
さっきまで笑顔で写ってた写真の笑顔が不確かになる…。
有希は今、どんな顔をしているんだろう?
本当に楽しかったのか?
そう自分の不安げになった顔が来たばかりの電車の窓に写る
本当は電話で確かめたかったけど
“どうしたの??なにかあったの?? 電車降りたら電話しようか”
“ううん。心配かけてごめんね 楽しいことしてるとふいに那智くんの事思い出しちゃって”
“次は一緒にデートしよう”
わかってる。本当は彼女は今すぐに会いたいからいつも言わないような言葉を発してるのに。
今から乗り換えをすればすぐに彼女の家には行ける。
だけれど、なぜか俺は小説の先の結末の方が大切だった。
“次のデートプランは有希の行きたいところへ行こうか”
そう打つと今度はポケットではなく鞄にスマホをしまいこみ、本を開いた。
心の中で彼女が悲しんでいるような顔が浮かんで少し罪悪感が募ったが
仕事への責任感に、覚えはじめの辛さを今は優しい言葉をかけてくれる有希には悟られたくなかった。
今、俺も寂しい気持ちで会ってしまうときっと情けない面をみせてしまうようなそんな気がした。
良樹は付き合って4年経つ俺の事、尊敬をして恋愛相談もよくしてくれるが
本当はおれ自身すごくもなんもないからこの月日が経っただけだ。
そんな事言うと有希はきっと悲しむから言わないけれど
小説の中身が全然頭に入ってこなくなった為、イヤホンを付けiPodで外部から自分をシャットアウトする
懐かしい歌が心地いい眠りへ誘い込む
歌詞は
おれはなんでもできる!そんな内容だ。
明日になったら仕事とうまく両立させて
一緒に暮らすことも考え始めよう
有希の不安もなくせるくらいちゃんと向き合おう。そしておれはちゃんといい男になろう
心地いい歌詞は最寄り駅に着くまで
俺をなんでも出来るヒーローに思わせてくれた。
#WAT#5センチ#
の歌に沿って書いた短編を見つけて
このスマホとおさらばして
iPhoneに換えるから完成させようと、
書き足してみたらあの頃思っていたハッピーエンドとは違った終わりにしてしまった。
本当は束縛ぎみな彼女に優しく寄り添う彼氏を書くつもりだった1年前のあの頃(笑)
仕事も恋も両立できる全能の人なんていないんだから
これでいいんだと思います(キリッ)
恋愛はきれいにしようと思うのが若い頃だけど、実際してみると
やっぱり他人同士なんだから綺麗事にならないのが普通で
そのなかでたまに綺麗な出来事や感動があるから続いていられる
そんなものです
そしてそれが正解だと思う今です
きっと那智くんは仕事と自分の時間を選んで
有希ちゃんと別れると思います。
那智くんも、有希ちゃんもその場ではとても悲しい思いをしますが
数年後にお互いに感謝して楽しく過ごしていると思います
これが私が出した大学生から延長戦で続いたカップルです。
勿論、自分の弱味や辛さを那智くんも出せて有希ちゃんも那智くんに束縛しすぎなければもっとハッピーエンドになったかもですが……
やっぱり恋愛もタイミングだねー…。
世の中の那智くん、有希ちゃん、そして良樹くんがこれよりも幸せな物語を送ってますように!